A: こんにちは、10年前の私。私は未来から来た貴方です。
B: うわ?! な、何も無いところから突然出てきた...。
しかもこの顔...大人びているけど、俺にそっくり...。
す、凄い!!! 未来ではタイムマシンが実現しているんだ!!
A: そうです。
昔の自分に会うというのは、なかなか乙な気分ですね。
B: 未来の自分に会う事になるなんて...夢みたいだ...。
会えて嬉しいです。
A: 私も。
しかし...もう、お別れです。
実は、私は貴方を殺しに来ました。(チャカッ)
B: ええ?!
A: では...。
B: ちょ、ちょっと待ってよ!! 何で?!
A: 自分なら殺しても罪にならないでしょう?
一度人を殺してみたかったんです。
B: ええ?!
A: ...なんてね。冗談です。
本当は、確かめてみたい事があるんです...
...じゃあ、いきますよ。
B: 待て待て待て!! 俺殺すって事は、10年前にあんたを殺すって事で、今存在するあんたも消えちゃうんじゃないの?!
A: あ、よく気付きましたね。確かめたい事とは、まさにそれです。
B: ?
A: 過去の自分を殺すという事は、今の自分の存在もまた消す事である。しかし同時に、今の自分の消滅は、過去の自分を殺す人物の消滅も意味する。
...このパラドクスが実際にはどうなるか、それを確かめたいんです。
B: だからって、自分が消えるかもしれないんだよ?! それでも良いの?!?!
A: そこです。しかし私には確信があります。私は消えません。
B: え?
A: 10年前、未来の私は私を殺しに来たりしませんでしたからね。
B: ...つまり?
A: 私と貴方のいる世界は、違う世界です。
B: は?
A: つまりパラレル・ワールドですね。
B: えぇ...それはちょっと飛躍しているんじゃ...
過去が変わるかもしれないじゃないか。
A: そんな事はありません。
B: 根拠は?
A: 私が貴方に干渉する事で、私自身の過去が変わるものだとすれば、今仮に私が貴方を殺さないで帰った場合でも、少なくとも今の私には10年前に10年後の自分に会った記憶があるはずです。
...が、ありません。
この事から、貴方に干渉する事が私の過去には影響しないと言う事は証明されています。
私と貴方は、同じ私でありながら違う経験を持つ、互いに違う世界の存在なんです。
B: でも...それが分かってるなら、わざわざ殺さなくても...
A: 駄目です。
私と同じ事を考え、過去の自分を殺しに行った人は、
実は他にもいます。
過去の自分を殺した上でまたこの未来の世界に戻ってきて、
自分の考えが正しいと証明してみせる。
その志を胸に、彼らはそれぞれ過去へ向かいました。
...しかし、一人として戻ってきませんでした。
B: え?
A: 殺してみるまで、どうなるかは分かりません。
B: 待っ...
A: それでは、さようなら...
B: ぎゃあああああああ
ガオンッ
ドサ...
◆ 未来へ ◆
A: ...何だこれは? 俺の墓??
でも、過去は未来に影響しないはずじゃ...
実際俺は消えてな...
?: きゃああああ、幽霊!?!?
?: 殺されたはずのBが何故?!
?: 血まみれだぞ!!!
?: 銃を持ってるわ!!!
?: こっちへ来るな!!! 悪霊め!!!
A: ちょっと、皆さん、落ち着いて...。
?: 来るなああああ!!!
?: うわああああ!!!!!
ガツンッ
ドサ...
ゴッ ゴッ ゴッ バキッ
ガッ ゴンッ ゴキッ...
...ドクン
A: (俺は消えてない...俺は死なな...)
...ドクン
A: (でも...殺され....)
...ドクン
A: (過去は.......そうか...)
...ドクン
A: (過去だけじゃなかった...未来もパラr
...ドクッ......
――――― 一人として戻ってきませんでした。